会社の健康管理義務と、個人への介入は別の問題

会社には、従業員の健康を確保するため、一定の法的義務があります。例えば、次のようなものです。

  • 定期健康診断の実施
  • ストレスチェックの実施
  • 一定の要件を満たす事業場における産業医の選任
  • 健康診断で異常所見が認められた従業員についての医師等からの意見聴取
  • 必要に応じた就業上の措置

ただし、これらは会社が従業員の私生活や健康管理の方法を自由に指示できるという意味ではありません。健康診断で異常所見が見つかった場合には、必要な事後措置を講じることになりますが、それを理由に会社が独自の判断でダイエットを命じられるわけではありません。再検査や精密検査についても、受診勧奨と受診の強制は区別する必要があります。

ストレスチェックについても、会社が本人の同意なく個人結果を取得したり、高ストレス者であることを理由に精神科などへの受診を一方的に強制したりできるものではありません(「ストレスチェックで高ストレス者の氏名を教えてほしいと言われたら」も参考にしてください)。

一方で、従業員からの申し出がなければ会社は何もしなくてよい、ということでもありません。健康診断の結果などを踏まえ、産業医等の意見を聴き、必要な就業上の措置を検討することは会社の役割です。つまり、会社として必要な健康管理上の対応を行うことと、個人の体重や生活習慣に介入することは分けて考える必要があります。

また、外見上肥満に見えるからといって、必ずしも健康状態が悪いとは限りません。体重や体形だけを理由に、業務能力や自己管理能力を判断することも適切ではありません。

経営者から「彼をダイエットさせろ!」と言われたら

しかし、創業者や経営者が自らの世界観や哲学を強く持っている場合、総務が法律と経営幹部の板挟みになることがあります。「太っている人間は自己管理ができていないから、パフォーマンスが悪いはずだ」「高ストレス者は自分に甘えているだけだ」といった考えを持つ経営者もいるかもしれません。

特に、従業員への面倒見がよい経営者の場合、健康状態を心配するあまり、「彼をダイエットさせろ!」といった、一歩踏み込んだ指示が総務に飛んでくることがあります。しかし、総務が該当する従業員に対してダイエットを強要することはできません。

強制ではなく、健康経営の施策に置き換える

ここで発想を変えてみることもできます。経営者は、従業員が健康になることや、ダイエットに取り組むこと自体には肯定的なわけです。それならば、健康経営のための予算を承認してもらい、従業員にメリットがある施策として実施することも考えられます。例えば、次のような方法です。

  • 外部の運動・健康管理プログラムを契約し、希望者が無料で参加できるようにする
  • 福利厚生の一環として、栄養バランスの取れた食事を提供する
  • 健康に関するセミナーや専門家への相談機会を設ける
  • スポーツジムの利用補助など、運動習慣を支援する制度を設ける

従業員に自助努力を求めるだけでなく、会社が費用を負担して健康づくりを支援する形にするわけです。もちろん、これらの施策への参加は原則として本人の意思を尊重し、体重の報告や減量目標の達成を強制するような運用は避けるべきでしょう。

また、特定の従業員だけを対象とした、事実上のダイエット指導にならないよう注意が必要です。福利厚生として制度化するのであれば、対象者や利用条件を明確にし、希望する従業員が公平に利用できる仕組みを検討します。ただし、全従業員に同じサービスを提供すれば、それだけで問題がなくなるわけではありません。参加を断った従業員への不利益な取り扱いや、健康情報の不必要な収集が生じないようにする必要があります。

経営者から、予算も付けず、本人の自助努力だけで痩せるように指示された場合には、総務として対応が難しいことを説明しましょう。外見や体重を理由とした一方的な指導は、内容や方法によってはハラスメントなどの問題につながる可能性があります。

従業員の健康を守りたいという経営者の意向そのものを否定する必要はありません。強制的に痩せさせるのではなく、従業員が自発的に健康づくりに取り組める環境を会社が用意する。総務としては、そのような施策に置き換えて提案することも、一つの対応方法です。喫煙への対応については「従業員に禁煙を強制してよい?会社ができる健康指導の範囲」も参考にしてください。

確認ポイント

  • 従業員の体形だけで健康状態を判断していないか
  • 健康診断の結果に基づく必要な事後措置を行っているか
  • 健康指導とダイエットの強制を混同していないか
  • 経営者や上長による発言がハラスメントにつながっていないか
  • 健康増進施策への参加が事実上の強制になっていないか
  • 福利厚生として公平に利用できる制度になっているか
  • 体重や健康診断結果などの個人情報を適切に管理しているか

こんなケース、どうする?

経営者から「太っている従業員を痩せさせろ」と言われた

会社が従業員にダイエットを一方的に強制することはできない旨を説明します。そのうえで、経営者が健康増進を望んでいるのであれば、希望者が参加できる健康経営プログラムや福利厚生制度の導入を提案します。

上長が従業員に繰り返し「痩せろ」と注意している

体重や体形について繰り返し指摘することは、発言の内容や状況によってはハラスメントに該当する可能性があります。健康上の配慮が必要な場合でも、外見を理由とした一方的な指導は避け、必要に応じて産業医等に相談します。

健康診断で肥満や生活習慣病に関する異常所見があった

健康診断の結果に応じて、法令に基づく医師等からの意見聴取や、必要な就業上の措置を検討します。再検査や精密検査の受診勧奨を行うことも考えられますが、会社が独自に減量目標を設定して強制することとは区別します。健康診断結果の取り扱いについては「健康診断結果の管理」も参考にしてください。

会社が費用を負担するダイエットプログラムを導入したい

福利厚生として導入することは考えられます。ただし、参加は本人の意思を尊重し、特定の従業員を名指しして参加させることは避けます。また、プログラムの運営会社から個人の体重や健康状態に関する情報を会社へ提供させる場合には、本人の同意や情報管理について慎重な検討が必要です。

ダイエットプログラムへの参加を拒否された

任意参加の福利厚生制度であれば、参加を強制することはできません。参加しないことを理由に、人事評価を下げたり、不利益な取り扱いをしたりすることも避ける必要があります。健康診断後の法定の事後措置など、会社として必要な対応は別途行います。