会社の健康管理義務と、禁煙の強制は別の問題

基本的に会社には、従業員の健康を確保するため、以下のような法的義務があります。

  • 定期健康診断の実施
  • ストレスチェックの実施
  • 一定の要件を満たす事業場における産業医の選任
  • 健康診断で異常所見が認められた従業員についての医師等からの意見聴取
  • 必要に応じた就業上の措置

※それぞれ対象となる事業場や従業員、実施条件は異なります。

健康診断で異常所見が見つかった場合には、再検査や精密検査の受診を勧奨したり、産業医等に相談したりすることができます。ただし、会社が従業員に対して、医療機関への受診や禁煙治療を一方的に強制できるわけではありません。

一方で、肥満や生活習慣病への対応とは異なり、喫煙については、適切な労働環境を維持するために会社としてできること、また行うべきことがあります。

喫煙環境を整備する

まず第一に、喫煙環境の整備です。健康増進法では、事業所を含む多くの施設について、原則として屋内禁煙とする受動喫煙防止のルールが定められています。一定の基準を満たした喫煙専用室などの設置が認められる場合もありますが、会社が自由に喫煙場所を設けられるわけではありません。そのうえで、会社が敷地内を全面禁煙とする方針を採用することも考えられます。

すでに敷地内に喫煙所を設けている場合でも、合理的な理由に基づいて廃止することは可能です。ただし、従業員への周知や、これまでの運用からの変更に伴う影響などは考慮する必要があります。

会社が職場での喫煙を禁止することと、従業員の私生活にまで踏み込んで禁煙を強制することは別の問題です。

頻繁な離席は「喫煙」ではなく「勤務態度」として指導する

また、従業員の喫煙頻度が異常に高い場合には、喫煙そのものではなく、勤務態度について指導できる場合があります。例えば、1時間に2回も3回も喫煙のために離席するような場合、業務に支障が生じる可能性があります。もちろん、会社が定めた休憩時間中の喫煙であれば、それだけを理由に問題視するべきではありません。

しかし、勤務時間中に頻繁に私的な離席を繰り返しているのであれば、他の従業員との公平性や業務への影響も考える必要があります。この場合、指導するべきなのは「タバコをやめなさい」ということではありません。「勤務時間中の私的な離席が多く、業務に支障が生じている」という点です。喫煙者だけを対象とするのではなく、同じように私的な理由で頻繁に離席する従業員がいれば、公平に取り扱うことが重要です。

タバコの「ニオイ」への対応は慎重に

もう一つ、難しいところでは「ニオイ」の問題があります。営業や接客など、お客様に接する機会が多い職種の場合、身だしなみや清潔感への配慮が求められることがあります。タバコの臭いについても、ドレスコードや接客上のルールの一部として考えることはできるでしょう(「服装規定(ドレスコード)を作るように言われたら」も参考にしてください)。例えば、顧客からタバコの臭いについて苦情が寄せられた場合、会社として何らかの対応を検討することは自然です。

しかし、服装やアクセサリーなどと異なり、臭いは本人が自覚しにくい場合があります。また、臭いの感じ方には個人差があり、本人の努力だけでは十分に改善できない場合もあります。そのため、指導の方法を誤ると、ハラスメントの問題につながりかねません(「スメハラ」も参考にしてください)。

「タバコ臭いから営業に向いていない」「喫煙者は自己管理ができていない」といった人格や能力への評価につなげることは避けるべきでしょう。臭いへの対応が必要なのであれば、特定の従業員を非難するのではなく、接客前の身だしなみや喫煙後の対応について、職場共通のルールを検討する方法もあります。

禁煙の強制ではなく、禁煙支援に置き換える

総務としては、経営者や上長から「従業員を禁煙させろ」と指示された場合でも、そのまま本人へ禁煙を要求するのではなく、会社として取り組める施策に置き換えることが考えられます。例えば、禁煙外来の費用補助や、希望者が参加できる禁煙支援プログラムなどです。

会社が従業員の健康を考えること自体は望ましいことです。しかし、本人に禁煙を強制するのではなく、職場の喫煙環境を整備し、希望する従業員の禁煙を支援するという考え方が適切でしょう。

確認ポイント

  • 社内の喫煙場所が受動喫煙防止に関する法令上の基準を満たしているか
  • 敷地内禁煙や喫煙所の廃止について、会社の方針が明確になっているか
  • 勤務時間中の喫煙による離席をどのように取り扱っているか
  • 喫煙者と非喫煙者で不公平な運用になっていないか
  • タバコの臭いについて、必要以上に個人を非難する指導をしていないか
  • 禁煙支援制度への参加が事実上の強制になっていないか

こんなケース、どうする?

経営者から「喫煙者を全員禁煙させろ」と言われた

従業員の私生活にまで踏み込んで禁煙を強制することは、原則として困難です。一方で、職場内や敷地内の禁煙ルールを整備することは可能です。禁煙支援プログラムや禁煙外来の費用補助など、希望者が利用できる施策を提案する方法もあります。

社内の喫煙所を廃止したい

受動喫煙防止や職場環境の改善を目的として、喫煙所を廃止することは考えられます。ただし、従業員への周知や、敷地外での喫煙による近隣への影響なども確認しておく必要があります。

1時間に何度もタバコを吸いに行く従業員がいる

まず、勤務時間中の離席なのか、所定の休憩時間中なのかを確認します。勤務時間中に頻繁な私的離席があり、業務に支障が生じている場合には、勤務態度について指導します。喫煙そのものではなく、離席の頻度や業務への影響を問題として扱います。

顧客から「担当者がタバコ臭い」と苦情が入った

苦情の内容や状況を確認し、接客上の身だしなみや臭いへの配慮について、必要な対応を検討します。特定の従業員の人格や能力を否定するような指導は避け、職場共通のルールとして整理することも考えられます。

禁煙支援プログラムへの参加を拒否された

任意参加の制度であれば、本人の意思を尊重します。参加を拒否したことだけを理由に、不利益な取り扱いをすることは避ける必要があります。職場内の喫煙ルールを守る義務と、禁煙支援制度への参加は区別して考えます。