同じ言葉でも、会社や文脈によって意味が変わる

よくあるのは「粗利」という言葉です。粗利とは、売上高から売上原価を差し引いたもので、会計用語としては「売上総利益」のことをいいます。売上総利益とは言いづらいので、会社によっては「売総(うりそう)」と略したりする場合もありますが、比較的古い会社や業界では「粗利」と言った方が通りがよい場合もあります。

「人件費」という言葉にも、会社の業界や文化によってさまざまな使われ方があります。例えば、物理的な仕入れがほとんどないサービス業界の場合、人件費を「原価」と呼ぶことがあります。実際に、サービスを提供する従業員の人件費が、売上原価の主要な部分を占める業種もあります。一方で、製造業や小売業では、原価といえば原材料費や仕入価格など、「モノ」にかかる費用をイメージする人もいるでしょう。ただし、製造業でも製造に直接携わる従業員の労務費などは製造原価に含まれます。そのため、人件費を原価と呼ぶこと自体が誤りというわけではなく、どの業務にかかる人件費を指しているのかが重要になります。

他にも、人件費を「直接人件費」「間接人件費」というように分けて管理する企業もあります。製造現場などでは、製品の製造に携わる従業員であっても、管理職の場合には事務仕事やマネジメント業務などを兼ねていることがあります。精緻に製造にかかる費用を測定したい場合には、実際に製造に従事した時間とそれ以外の業務に従事した時間を分けて考え、工数を測定したり一定の基準で按分したりして、直接的な工数と間接的な工数を算出することもあります。同じような考え方を、別の言葉で表現している企業もあるかもしれません。

また、単に「利益」と言われたら、企業の中で何を指すでしょうか。経常利益を指す場合もあれば、営業利益を指す場合もあります。粗利が重要な会社では、利益と言われると売上総利益を意味することもあるでしょう。投資家や株主などのステークホルダーとの会話では、当期純利益を指しているかもしれません。これらは会計上それぞれ異なる指標ですが、日常の会話では「利益」という一つの言葉で済ませてしまうことがあります。

言葉狩りは、かえって弊害を生むことがある

例えば、社内では正式な会計用語を使用するという理由で「粗利」という言葉を禁止したとしても、営業先や取引先では、やはり「粗利」という言い方の方が話が通じることもあります。「粗利」という言葉の存在を封殺するような研修や周知を行うことは、かえって弊害が生じかねません。

社内の正式な資料では「売上総利益」と表記する一方で、「粗利」とは同じ意味で使われることがあると教える方が、実務上の利便性は高いでしょう。

正式な資料や業務システムでは定義を統一する

一方で、用語を統一しなければならない場面もあります。例えば、経営会議の資料で「利益」と記載されているにもかかわらず、ある部署は営業利益、別の部署は経常利益を指しているのであれば、正しい比較や判断ができません。また、システムに登録する項目名や社内の申請書、規程などでも、同じ言葉が異なる意味で使われていると混乱が生じます。

そのため、日常会話での言葉の使い方と、正式な資料や業務システムで使用する用語は、分けて考えることが重要です。例えば、経営資料や社内規程、業務システムでは正式名称や定義を統一し、日常の会話では一般的な略称や業界用語を許容するという方法もあります。

また、独自の社内用語が多い企業であれば、新入社員や中途入社者向けに用語集を用意しておくことも考えられます。その際には、社内で使われている言葉を単に列挙するのではなく、正式名称や一般的な意味との違いを説明しておくとよいでしょう。用語集などの社内情報を届ける仕組みについては「会社の情報・ナレッジ共有」も参考にしてください。

企業文化としての言葉を残しながら、正確さが必要な場面で統一する

総務としては、社内の言葉をすべて統一しようとするよりも、言葉の違いによって業務上の誤解やトラブルが生じないようにすることを優先したいところです。

企業文化としての言葉を残しながら、正確さが必要な場面では定義を統一する。その程度の柔軟さがあった方が、実務では使いやすいのではないでしょうか。

確認ポイント

  • 同じ用語が部署によって異なる意味で使われていないか
  • 経営資料や会計資料で使用する用語の定義が明確になっているか
  • 社内規程や申請書、業務システムの項目名が統一されているか
  • 社内独自の略語や業界用語を新入社員が理解できるか
  • 正式名称と日常的な呼び方を区別しているか
  • 用語の統一が目的化し、現場の利便性を損なっていないか

こんなケース、どうする?

部署によって「利益」の意味が違う

経営資料や会議で使用する場合には、営業利益、経常利益、売上総利益など、何を指すのか明確にします。日常会話まで一律に制限する必要はありませんが、意思決定に使用する数値については定義を統一しておく必要があります。

社内で「粗利」という言葉を禁止するべき?

必ずしも禁止する必要はありません。正式な資料では「売上総利益」を使用し、日常会話や取引先とのやり取りでは「粗利」という言葉も使われることを理解しておけばよいでしょう。

新入社員が社内独自の用語を理解できない

社内用語集を用意し、一般的な意味や正式名称との違いを説明します。単に言葉を暗記させるのではなく、どのような業務や場面で使用されるのかを伝えることが重要です。

社内規程と現場で使われている用語が違う

規程上の正式名称を明確にし、必要に応じて一般的な呼び方を併記する方法が考えられます。特に申請や承認に関わる用語については、従業員が誤解しないようにする必要があります。

社内用語をすべて統一するよう経営者から指示された

まず、何を目的として統一するのかを確認します。経営資料の正確性を高めるためなのか、部署間のコミュニケーションを改善するためなのかによって、必要な対応は異なります。日常会話まで厳格に統一するのではなく、正式な資料やシステムで使用する用語を優先して整理する方法を提案してもよいでしょう。