1. 副業のトレンドと解禁を検討する背景
パーソル総合研究所の2025年10月公開のプレスリリースによれば、副業を容認している企業は64.3%となっています。
副業を解禁している企業や、実際に副業をしている従業員も増えています。
こうしたトレンドを受け、副業の解禁を検討する企業も増えているのではないでしょうか。
また従業員側からすれば、勤務時間外の過ごし方まで会社から制限されたくないという考え方もあります。
会社が禁止していたとしても、会社へ申告せず副業を行う従業員が出てくる可能性もあります。
そうであれば、
「副業は禁止」
とするだけではなく、会社として方針とルールを明確にしたうえで、副業を認めるという選択肢もあります。
働き方の多様性を認める一方で、本業への支障、情報漏洩、競業など、会社として認められない行為については明確に制限する。
この線引きをどこに置くのかが、副業制度を設計するうえでのポイントになります。
2. 副業を解禁するにあたって整理すべきリスク
副業を解禁する場合、これまで会社が副業を禁止・制限してきた背景にあるリスクについて、改めて整理する必要があります。
① 本業への影響
本業終了後や休日に副業を行うことで十分な休息が取れず、本業のパフォーマンスが低下する可能性があります。
例えば、
- 遅刻や欠勤が増える
- 業務上のミスが増える
- 集中力が低下する
- 過労によって健康状態に影響する
といったことです。
副業そのものを問題にするのではなく、
「副業によって本業への労務提供に支障が生じていないか」
という観点で考える必要があります。
② 労働時間管理
他社でも雇用される形で副業する場合、一定の場合には本業と副業の労働時間を通算して管理する必要があります。
そのため、
- 副業先で何時間働いているのか
- どのような雇用契約になっているのか
- 労働時間をどのように申告してもらうのか
- 会社側でどのように管理するのか
といった運用が新たに必要になる場合があります。
一方、フリーランスや個人事業など、労働基準法上の労働者に該当しない形態で行われる副業については、労働時間通算の扱いが異なります。
したがって、副業の契約形態によって会社側に発生する管理業務が変わることを前提に、制度を設計する必要があります。
③ 情報漏洩
本業で知り得た情報を、副業で利用してしまうリスクがあります。
例えば、
- 顧客情報
- 営業資料
- 価格情報
- 社内データ
- 業務上のノウハウ
- 取引先との人脈
などです。
本人に悪意がなくても、
「普段の仕事で使っている資料を参考にした」
「本業で知り合った取引先へ営業した」
といった行動が問題になる可能性があります。
副業を認めるのであれば、どのような情報や行為がNGなのかについても明確にしておく必要があります。
④ 会社リソースの使用
会社から貸与されているPCやスマートフォン、ソフトウェア、クラウドサービス、会社施設などを副業に利用する可能性もあります。
例えば、
- 会社のPCで副業の資料を作成する
- 会社契約の生成AIやソフトウェアを利用する
- 会社のクラウドストレージへ副業データを保存する
- 会社のプリンターや備品を使用する
といったケースです。
これは情報セキュリティだけでなく、資産管理やライセンス管理上の問題にもつながります。
これらは副業に伴って潜在するリスクですが、副業を禁止しなければ防げないものばかりではありません。
会社としてNG行動を明確にし、規程・教育・周知によってコントロールするという方法もあります。
逆に、副業を禁止しているために従業員が会社へ申告せず副業を行えば、会社側がその実態を把握できないという問題もあります。
どちらを選択するにしても、
「副業を認めるか」
だけではなく、
「副業に伴うリスクを会社としてどこまで許容し、どこから制限するのか」
を決めておく必要があります。
一方、こうしたリスクを看過できないと判断するのであれば、副業を認めないという選択肢もあります。
その場合も、単に昔から禁止しているからではなく、現在の会社方針として副業をどのように扱うのかを整理し、従業員へ改めて周知しておいた方がよいでしょう。
3. 解禁に向けた制度設計の3つのポイント
副業を解禁する方向に方針が固まった場合、具体的な制度設計に入ります。
ここでは特に、次の3点を検討します。
① 許可制にするかどうか
まず、副業を始める際に会社の許可を必要とするのかを決めます。
例えば許可制であれば、申請された副業について、
- どのような仕事なのか
- 本業との競業関係はないか
- 情報漏洩等のリスクはないか
- 他社との雇用契約を伴うのか
- 本業へ支障を与える可能性はないか
などを事前に確認できます。
一方で、すべての副業について申請と審査を行えば、その分だけ会社側にも運用が発生します。
許可制以外にも、
- 原則自由とする
- 会社への届出だけを求める
- 一定の副業についてのみ許可を必要とする
などの設計が考えられます。
厚生労働省のモデル就業規則では、勤務時間外の副業・兼業を可能としたうえで、届出を求め、一定の場合に禁止・制限できる構成が採られています。
これをそのまま採用する必要があるということではなく、会社としてどの程度まで副業を把握・管理するのかを決め、その方針に合わせて制度を設計します。
② 副業の範囲を限定するかどうか
次に、どのような副業まで認めるのかを考えます。
公序良俗に反するものや会社の信用を毀損するものなどを制限するだけでなく、副業の契約形態まで条件にするのかも検討ポイントになります。
例えば他社との雇用契約を伴う副業を認める場合、前述した労働時間管理についても運用を設計する必要があります。
一方、雇用契約を伴わない副業としては、
- イラストや漫画を制作して販売する
- ECサイト等で商品を販売する
- 業務委託契約でコンサルティングを行う
- システム開発を請け負う
- 執筆活動を行う
などがあります。
そのため、
「雇用型の副業まで認める」
「業務委託・個人事業型を中心に認める」
「契約形態では制限せず、個別のリスクで判断する」
など、会社によって異なる設計が考えられます。
単純に「副業可」とだけ決めるのではなく、どの範囲までを会社として認めるのかを先に決め、その内容を規程や申請フローへ反映していきます。
③ 違反者への対応
最後に、届出・許可した内容と異なる副業を行っていた場合や、禁止行為に該当する副業が発覚した場合の対応も決めておく必要があります。
許可の取消しや副業の中止を求めるだけで足りるのか、服務規律違反として懲戒の対象とするのかによって、規程に盛り込む内容も変わります。
ここまでの3点を整理したうえで、次の就業規則案に反映していきます。
4. 設計内容を反映した就業規則案
ここまでの設計によって、就業規則に盛り込む内容も変わります。
以下は、
「事前許可制とする」
「会社が一定の副業を禁止・制限できる」
という設計を採用した場合の、プレーンな条文案です。
雇用型副業を認めるかどうか、競業をどこまで制限するか、違反時の扱いをどこまで規程へ盛り込むかなどによって、ここから追加・変更していくことを想定しています。
第◯条(副業・兼業)
1. 従業員は、勤務時間外において、副業・兼業(自ら事業を営み、または他の事業者等の業務に従事することをいう)を行おうとする場合は、事前に会社の許可を得なければならない。
2. 会社は、前項の申請について、次の各号のいずれかに該当すると認められる場合は、許可しないことがある。
- 副業・兼業に起因して、遅刻、欠勤、業務上のミスその他労務提供上の支障が生じ、または生じるおそれがある場合
- 会社の機密情報または顧客情報等が漏洩し、または漏洩するおそれがある場合
- 会社の名誉または信用を損なうおそれがある場合
- 競業によって会社の利益を害するおそれがある場合
- 法令または公序良俗に反する場合
- その他、前各号に準じる事由があると会社が認める場合
(他社との雇用契約を伴う副業・兼業を制限する設計とする場合は、その旨を追加する)
3. 許可を得た従業員は、副業・兼業の内容に重要な変更が生じた場合、速やかに会社へ届け出なければならない。
4. 会社は、一度許可した副業・兼業であっても、第2項各号に該当することとなった場合は、その許可を取り消し、または副業・兼業の内容の変更もしくは中止を求めることがある。
この条文はあくまでプレーンな案です。
例えば、
届出制にするのであれば第1項を変更する。
他社との雇用契約を認めないのであれば第2項へ追加する。
一定の業種や競業関係を細かく定義するのであれば、その条件を追加する。
違反時の対応まで明文化するのであれば、既存の服務規律や懲戒規定との関係も含めて整理する。
というように、前項で決めた制度設計を規程へ反映していきます。
5. まとめ
副業制度を解禁すること自体は、それほど難しいことではありません。
難しいのは、
「どのような副業まで認めるのか」
「会社はどこまで把握するのか」
「何を禁止するのか」
「問題が起きた場合にどう対応するのか」
という実際の運用を決めることです。
先に規程のひな形を探し、それをそのまま就業規則へ追加してしまうと、実際の運用と規程が噛み合わなくなる可能性があります。
まず会社としての副業に対するスタンスを決める。
そのうえで、
副業の範囲を決める
→ 許可・届出などの管理方法を決める
→ NG行動を決める
→ 違反時の対応を決める
→ 就業規則へ反映する
→ 申請・確認などの実際の運用へ落とし込む
という順番で設計した方が整理しやすくなります。
副業を認めることが目的ではありません。
会社が副業を認めるのであれば、従業員が判断に迷わず、総務側もその都度ゼロから判断する必要がない状態までルールを設計しておく。
副業・兼業が珍しくなくなった今だからこそ、単純な「禁止」「解禁」の二択ではなく、自社ではどこまで認め、どこから認めないのかを具体的な運用まで落とし込んでおくことが重要ではないでしょうか。