1. 属人化解消のレベルを引き下げる
属人化のリスクを感じる場面とは、「Aさんがいなくなったら、その仕事を誰もできなくなる」という危機感から生まれます。
もちろん、Aさんが退職することが事前に分かっているのであれば、十分な引継ぎ期間を設けることもできるでしょう。しかし、本当に怖い属人化とは、病気やケガなどによって突然出社できなくなり、総務部として身動きが取れなくなる状況です。
属人化解消の相談を受けると、多くの総務部長やマネージャーから「Aさんが突然いなくなっても、今までどおり業務が回る体制にしたい」という要望をいただきます。そのために業務を可視化し、誰でも相互にフォローできる状態を目指したいという考え方です。
しかし、私はこの要望に対して「そのまま実現するのは難しい」とお伝えすることが少なくありません。それは、属人化の解消というよりも、「業務の複線化」を目指しているからです。
複線化とは、常に複数人が同じレベルで業務を担当できる状態を維持することです。理想ではありますが、そのためには複数人が継続して経験を積み続ける必要があり、人員にも時間にも大きなコストがかかります。
もしAさんが突然業務に参加できなくなるような事故や病気が起きたのであれば、「今までどおり」のスピードや品質を維持することは、一度諦めるべきです。重要なのは、業務を止めないことです。
2. 属人化解消の考え方
私は、業務を可視化し、マニュアルを整備することには賛成です。しかし、「マニュアルを使って、誰もがAさんと同じ品質・同じスピードで仕事ができるようにする」という考え方には、少し無理があります。
私が現実的だと思うのは、「全員が20%程度はその業務を知っている状態」を目指すことです。突発的な事故が起きた場合でも、その20%の知識をもとに優先順位を判断し、業務フローやマニュアルを見ながら、時間や人数をかけて仕事を進める。
普段の5倍時間がかかったとしても、Aさんが戻ってくるまで、あるいは新しい担当者が決まるまで、会社として何とか業務を継続できる状態を目指します。これが、私が考える属人化解消のゴールです。
日頃から少しずつ知識を共有していけば、20%が30%、40%へと自然に広がっていきます。例えば、Aさんが毎月10件処理している業務があるなら、そのうち2〜3件だけでも他のメンバーが担当してみる。こうした小さな積み重ねだけでも、属人化リスクは大きく下げることができます。
3. マニュアル作成の考え方
属人化を解消するためには、マニュアルの整備は欠かせません。ただし、マニュアルを作る目的を明確にしておくことが重要です。先ほどお話ししたように、「全員が20%程度は業務を理解している」ことを前提にすると、マニュアルの作り方も大きく変わります。
業務マニュアルは、作る人によって粒度が大きく変わるものです。「新人でもこのマニュアルだけを見れば仕事ができるレベル」を目指そうとすると、
- 用語の説明
- システム名
- フォルダの場所
- キャビネットの場所
- 備品の名称
- 会議室の場所
など、あらゆる前提知識を書かなければならなくなります。
もちろん、そのようなマニュアルがあれば理想的です。しかし、そのレベルのマニュアルを維持し続けるには、多くの時間と労力が必要になります。
一方で、実際には新しく担当する人に対して、まったく説明をしないというケースはほとんどありません。通常はオリエンテーションやOJTが行われ、基本的な業務知識や社内ルールはそこで身に付けてもらうはずです。
つまり、マニュアルは「20%程度の業務知識がある人」を前提として作っても十分実用的です。そう考えれば、細かな前提知識をすべて文章にする必要はなくなります。マニュアルを作る側の負担も大きく下がり、更新もしやすくなります。結果として、運用され続けるマニュアルになりやすいのです。
4. 解消すべき属人化
ここまでお話ししてきたのは、「作業の属人化」についてです。これは、本来標準化できる業務であるにもかかわらず、「その作業ができるのはAさんだけ」という状態を指します。
一方で、属人化にはもう一つのパターンがあります。それが「ルールの属人化」です。例えば、
- Aさんに依頼すると融通してくれる
- Aさんに依頼すると否認される
- Aさんだけが特別な判断基準を持っている
- Aさんだけが例外処理のやり方を知っている
このような状態です。こちらの属人化は、できるだけ早く解消すべきです。なぜなら、会社のルールではなく、「Aさんルール」で仕事が進むようになってしまうからです。担当者が変わるたびに判断基準が変わるようでは、社内の公平性も保てません。
とはいえ、この種の属人化は、作業の属人化よりも解消が難しい場合があります。長年そのやり方で仕事をしてきた人に対して、「これまでの運用は間違っていたので、今日から変えます。」と言っても、素直に受け入れてもらえるケースは多くありません。場合によっては、本人も会社や経営層の要望を受けながら、その都度柔軟に対応した結果、現在の運用になっていることもあります。
そのため、「あなたが間違っていた」という伝え方ではなく、
- 会社の方針が変わった
- システムを刷新することになった
- 新しいルールとして統一する
- 監査や第三者からの指摘を踏まえて見直す
といった形で運用変更を進めた方が、現場の納得を得やすいことも少なくありません。
属人化の解消は、業務改善であると同時に組織改善でもあります。これからも活躍してもらう社員のモチベーションを維持しながら進めることも、総務にとって重要な仕事の一つだと考えています。
まとめ
一言で「属人化を解消する」と言っても、どこをゴールに設定するかによって、取り組み方は大きく変わります。全員が100%同じレベルで仕事ができる状態を目指すことは理想ですが、それは属人化の解消というよりも、複線化に近い考え方です。
多くの総務部門では、人員や時間に限りがあります。だからこそ、まずは「全員が20%ずつ知っている状態」を目指してみてはいかがでしょうか。突発的な欠員が発生しても、マニュアルを見ながら時間をかければ仕事は止めない。その状態を作るだけでも、組織としてのリスクは大きく下げることができます。
そして、日々の業務の中で少しずつ知識を共有し、20%を30%、40%へと積み重ねていく。その積み重ねこそが、総務における現実的な属人化解消ではないでしょうか。