一時帰宅費用を会社が負担する法律上の義務はない
基本的に、業務上必要で合理的な出張命令であれば、従業員が自由に拒否できるとは限りません。しかし、冠婚葬祭や祝事など、一生に一度のイベントが予定されているのであれば、出張を別の人に命じる、その日には休暇を取得できるよう調整するなど、会社として譲歩する方法は十分にあります。一方で、予定していなかった弔事や、私的な旅行、趣味のイベントなどのために一時帰宅する場合も、会社は交通費を負担するべきでしょうか。
結論として、長期出張や単身赴任中の私的な一時帰宅費用について、会社が一律に負担しなければならないという法律上の決まりはありません。基本的には、会社の旅費規程や単身赴任規程、労働契約などに従って判断することになります。ただし、法律上の負担義務がないからといって、すべて従業員の自己負担にすることが適切とも限りません。例えば、数週間程度の出張と、半年以上にわたる長期出張では、従業員やその家族への負担が異なります。また、単身赴任の場合には、家族と離れて生活することが前提となるため、月1回など一定の頻度で帰省旅費を支給する制度を設けることも考えられます。
負担する範囲を規程で決めておく
会社としては、出張や単身赴任の期間、帰宅する理由、帰宅頻度などを踏まえ、どの範囲まで費用を負担するかを決めておく必要があります。例えば、次のような項目です。
- 一定期間を超える長期出張について、月1回の一時帰宅費用を支給する
- 単身赴任者について、一定回数の帰省旅費を支給する
- 親族の死亡など、緊急の帰宅が必要な場合には特例を設ける
- 私的な旅行や趣味のイベントなどは、原則として自己負担とする
- 会社負担の対象となる交通手段や金額の上限を定める
税務上の取り扱いと休暇の扱いにも注意する
一時帰宅のための交通費を会社が負担する場合には、税務上の取り扱いにも注意が必要です。業務上必要な移動に伴う旅費と、私的な帰宅のために支給する費用は、必ずしも同じ取り扱いにはなりません。特に単身赴任者の帰省旅費については、支給目的や実態によって給与として課税される場合があるため、規程を整備する際には確認しておく必要があります。
さらに、交通費を負担するかどうかと、休暇を認めるかどうかは別の問題です。一時帰宅を認める場合でも、有給休暇を利用するのか、特別休暇を設けるのか、休日を利用するのかを整理しておく必要があります。
出張や単身赴任を命じる前に決めておく
出張手当や宿泊費などの規程に比べると、一時帰宅の取り扱いは比較的見落としがちな部分かもしれません。出張が多い企業では、すでに整備されていることもあるでしょう。しかし、最近になって出張が増えてきた企業や、突発的な長期出張が発生する企業など、これまでたまたまトラブルになっていなかっただけという場合は注意が必要です。
従業員から一時帰宅費用の申請があってから判断するのではなく、出張や単身赴任を命じる前に、会社としての負担範囲を明確にしておくことが重要です。
確認ポイント
- 長期出張や単身赴任中の一時帰宅について規程があるか
- 会社が交通費を負担する条件や回数が明確になっているか
- 冠婚葬祭など、緊急性や必要性の高い帰宅について特例があるか
- 私的なイベントのための帰宅費用をどう扱うか
- 一時帰宅時の休暇の取り扱いが決まっているか
- 会社負担とする交通費の上限や交通手段が明確になっているか
- 帰省旅費などの税務上の取り扱いを確認しているか
こんなケース、どうする?
長期出張中の従業員から「週末に自宅へ帰りたい」と言われた
まず、旅費規程に一時帰宅費用の支給条件があるかを確認します。規程がない場合には、出張期間やこれまでの取り扱いなどを踏まえ、会社として費用を負担するか判断します。今後も同様の出張が発生するのであれば、個別判断を繰り返すのではなく、支給条件を整備しておくとよいでしょう。
出張中に親族が亡くなり、急きょ帰宅することになった
忌引休暇の対象となるか、帰宅費用を会社が負担するかを確認します。忌引休暇が認められることと、帰宅交通費を会社が負担することは別の問題です。規程に定めがない場合には、個別に判断する必要があります。忌引休暇の取り扱いについては「忌引き休暇」も参考にしてください。
単身赴任者から「毎月1回の帰省費用を出してほしい」と言われた
単身赴任規程に帰省旅費の支給条件があるかを確認します。制度を設ける場合には、支給回数、対象となる帰省先、交通費の上限、申請方法などを明確にします。また、支給した帰省旅費の税務上の取り扱いも確認しておきます。
私的なイベントのための帰宅費用を請求された
会社に一律の費用負担義務があるわけではありません。旅費規程や単身赴任規程に従って判断し、規程がない場合には、他の従業員との公平性も踏まえて対応します。
これまで会社負担としていた帰省旅費を廃止したい
既存の規程や労働契約、運用実態を確認します。帰省旅費が労働条件として定着している場合には、一方的な廃止が不利益変更に当たる可能性があります。費用削減だけを理由に直ちに廃止するのではなく、必要な手続きを確認して進めることが重要です。